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第71話 従兄弟・征司の接近④

Author: 花柳響
last update Last Updated: 2026-01-28 18:01:55

 征司の声は、とろけるような同情に満ちていた。

 まるで、雨に濡れた捨て犬を慰めるような、優しい響き。

 昨日の湊の怒声が蘇り、ふいに目頭が熱くなる。

 誰にも言えなかった。誰にも分かってもらえないと思っていた孤独。

 それを、この男はすべて知っている。

「僕なら、女の子にそんな顔はさせないけどな」

 征司の手が、ついに私の頬に触れた。

 湊の手よりも少し温度が低く、乾いた指先。それが、涙を拭うように優しく頬を撫でる。

「僕のほうが、君を幸せにできるよ」

 甘い毒のような囁き。

 心が、ぐらりと揺れた。

 弱っている心に、その優しさはあまりにも深く染み込みすぎる。

 湊は私を拒絶した。仕事上のパートナーでしかないと突き放した。

 でも、この人は――。

「……随分と仲が良さそうだな」

 その瞬間、テラスの空気が凍りついた。

 氷点下の風が吹き荒れたかのような、肌を刺す殺気。

 征司の手がピタリと止まり、私も弾かれたように振り返った。

 テラスの入り口に、湊が立っていた。

 逆光で表情は見えない。

 けれど、その立ち姿から滲み出るどす黒い感情が、周囲の空間そのものを歪めているように見えた。

「……やあ、湊兄さん。お疲れ様」

 征司は悪びれる様子もなく、私の頬からゆっくりと、名残惜しそうに手を離した。その動作一つひとつが、わざとらしく湊を挑発している。

「朱里ちゃんが疲れてそうだったから、労わってあげてたんだよ。……大切な婚約者を放っておいて仕事ばかりなんて、感心しないなぁ」

「……僕の婚約者に、気安く触るな」

 湊が一歩、踏み出した。

 カツン、という硬質な革靴の音が、まるで銃声のように響く。

「汚れる」

 吐き捨てられた一言に、征司の張り付けたような笑顔が凍りついた。

「……相変わらず、潔癖だねぇ」

「消えろ、征司。&hellip
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     それは馬鹿にするような色ではなく、純粋な称賛の響きを含んでいるように聞こえた。「綺麗に着飾っただけのお人形かと思ってたけど……君は、ちゃんと生きてるね。あの血も涙もない湊の隣にいるには、もったいないくらいだ」「……湊は、血も涙もない人なんかじゃありません」 考えもしないうちに、言葉が口をついて出ていた。 自分でも驚く。あんなに冷たくされているのに、どうして彼を庇うようなことを言ってしまうのだろう。「へえ? 随分と愛されてるんだな、兄貴は」 征司は面白そうに目を細めた。 彼はポケットからハンカチを取り出すと、何かを包んで私に差し出した。「ほら。これ、使いなよ」「え……?」 差し出されたハンカチは、冷たい水滴を帯びていた。中に入っているのは氷だ。おそらく、会場のドリンクコーナーから拝借してきたものだろう。「足、痛いんだろ? 冷やすと少しはマシになるよ。……湊はそういう細かいとこ、気がつかないからなぁ」 そのさりげない気遣いに、強張っていた胸の奥が少しだけ緩む。 湊なら、「我慢しろ」と切り捨てるか、あるいは有無を言わさず抱き上げて運ぶかのどちらかだ。こんな風に、目線を合わせて労ってくれることなんて、きっとない。「……ありがとうございます」 私は素直に礼を言い、ハンカチを受け取った。 布越しに伝わる氷の冷たさが、熱を持ってズキズキと痛む足首に染み渡り、心地いい。「ねえ、朱里ちゃん。……って呼んでいい?」 ふわり、と甘い匂いが近づいた。 征司が、音もなく距離を詰めてきている。 私の名前を呼ぶ声が、妙に馴れ馴れしく、それでいて拒絶できない甘さで絡みつく。「君、無理してない?」「……え?」「顔に書いてあるよ。『疲れた』『寂しい』『褒めてほしい』って」 図星だった。 心臓が早鐘を打ち、息

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